今作『無限の住人』は講談社より刊行されている月刊アフタヌーンで連載されていた沙村広明による漫画原作を三池崇史監督お得意の実写映画しやがったてくれた映画作品です。
先に申し上げておくと誠に残念ながら”原作クラッシャー”の異名を持つ三池崇史監督が、今回はどうした事かちゃんと原作を生かした作品を作ってしまい、原作ファンである記者も十分楽しめる内容でありました。
まさに奇跡!
言うなればスプラッターチャンバラ時代劇
あらすじ:勝つ事を信念に日本全国の剣の流派を一つに統一する事を目指す剣客集団逸刀流(いっとうりゅう)によって両親を殺されてしまった 浅野凛(あさの りん 演:杉咲花)が敵討ちを目指す折、不死身の剣客である万次(まんじ 演:木村拓哉)と出会いその使命を託す物語です。
原作漫画では”ネオ時代劇”なんて冠が付いていたりする様にお約束の勧善懲悪など存在せず、不死身の主人公 万次が満身創痍で強敵達と死闘を繰り広げるリアリズムを重点にフィクションである『不死身』を描いた重厚な時代劇がこの作品『無限の住人』です。
しかもそんな死闘を作り上げたこちらは実写映画、嫌が応にも血の気がリアルに表現されてしまいます。
流石のPG12+ 三池崇史監督によるケレン味たっぷりのリアリズムと死にはしないが疲れるし、傷の治りもそれなり、痛みも我慢しまくりな不死身の万次が間髪入れず戦い続ける手に汗握る展開が繰り広げられ、まさに”無限血の池地獄”なチャンバラがお腹いっぱい楽しめる作品なのです。
原作好きは出てくる武器とキャラクターの再現度で楽しもう
いかんせん漫画原作を実写化するとコスプレショー呼ばわりされがちで、実際そうなってしまった作品も数多く存在します。
そうした作品を数多く手掛ける三池崇史監督ですからふとした隙が”原作クラッシャー”の異名が発動しがちですが今作はリアルな時代劇特有の地味感に原作の奇抜なヴィジョンが上手く混ざり合って丁度良い、本当に丁度良い印象で楽しむことができました。
さらに原作に登場するこれまた奇抜な武器がリアルに再現されて勢揃いと武器大好きな男心をくすぐってくれちゃいます。
実用性や統一感のない独特の姿をした武器の数々をよくぞここまでと再現してくれていて、あれは元々〇〇の得物で単行本○巻に登場してなど原作ライクなみなさんは是非その辺に注目頂くと更に楽しめる事間違いなしです。
残念な部分ももちろんあるが及第点!
全30巻に及ぶ原作を一つの映画に再構築するのですから、切り捨てられる場面やキャラクターも多く存在する訳ですが今作ではそう言った切り捨てられた部分よりも、出てくるには出てくるが扱いが残念になってしまった部分が気になってしまう感があります。
原作では共闘したりもする準レギュラー、 凶戴斗(まがつ たいと)は連載初期に繰り広げられた決闘だけの登場で、同映画にも登場する外道剣士 尸良(しら)との後の因縁関係が描かれるこなく途中退場してしまいます。
さらに幕府飼いの剣客集団 無骸流(むがいりゅう)の面々も出したかっただけ感が強く、原作ではチートの様な強さを見せてくれた 偽一(ぎいち)に至っては戦う場面すらありません。
前述した 尸良も無骸流の中で一番出番があるにしても只の噛ませ犬感満載でせっかく作った右腕の骨の短刀もほとんど使わずにあっさり 万次に殺されてしまいます。
なお 心理路(しんりじ)に至っては存在すらしません(…かわいそうな心理路)
こうして並べてみると結構残念な映画の様に聞こえてしまいますが、より観客の目線を「万次」と「凛」の敵討ちの旅に集中させるためこう言った調整が必要だったのだろうと、そう言ったカットを納得して受け入れられる印象でした。
これまで漫画の実写化というとそれだけでアレルギーを引き起こす感じもありました。
そんな様々な実写再現の壁と言うのか制限を乗り越えて、漫画原作の実写化もここまで安定した形で提供できるまでに時代が進歩しているのだ言う嬉しい結果が見て取れ、原作ファンでも遜色を感じる事ない時代を感じる事のできる作品の一つである事は間違いありません。
そして原作を知らなくても壮絶アクションの殺陣で無数の敵を斬りまくる日本刀アクション時代劇を求めている方であれば一見の価値ありとお勧めできる作品です!