マンガ大賞とは書店員を中心とした有志による選考委員らが「今、一番友達に薦めたいマンガ」をコンセプトに決定するマンガ賞。
先月、マンガ大賞2015にノミネートされた作品のご紹介をさせていただきました。
そして、3月24日に大賞作品が発表されました。
今回の記事では、作品結果や受賞傾向などを考察していきたいと思います。
大賞は東村アキコさんの「かくかくしかじか」に決定!
マンガ大賞2015の大賞は東村アキコさんの『かくかくしかじか』に決定しました。
おめでとうございます!
『マンガ大賞2015』の結果は以下の通りです。
大賞:『かくかくしかじか』東村アキコ
2位:『子供はわかってあげない』田島列島
3位:『聲の形』大今良時
4位:『僕だけがいない街』三部けい
5位:『BLUE GIANT』石塚真一
6位:『ボールルームへようこそ』竹内友
7位:『イノサン』坂本眞一
8位:『僕のヒーローアカデミア』堀越耕平
9位:『王様達のヴァイキング』さだやす/深見真(ストーリー協力)
10位:『累 ―かさね―』松浦だるま
11位:『月刊少女野崎くん』椿いづみ
12位:『魔法使いの嫁』ヤマザキコレ
13位:『宝石の国』市川春子
14位:『ドミトリーともきんす』高野文子
授賞式の様子や選考コメントなど、詳細はマンガ大賞のホームページをご覧ください。
http://www.mangataisho.com/
「かくかくしかじか」という作品について
それでは、大賞を受賞した東村アキコさんの『かくかくしかじか』についてご紹介していきたいと思います。
「かくかくしかじか」は、東村さんが漫画家になるまでのエピソードや、絵画教室の先生・日高健三氏との交流を描いた自伝的エッセイマンガです。
少女マンガ家を夢見る主人公(東村さん)が、美術大学受験のために日高絵画教室に通うも待っていたのは竹刀とプロレス技によるスパルタ指導。時には挫折し反発しながらも、日高先生と共にデッサンに勤しむ日々を描いています。
エッセイというと、ユーモアあふれる作品が多いと思います。
この作品でも、絵画教室の先生にしては破天荒な日高先生と、ポジティブ思考の主人公の掛け合いをコメディタッチで描いており、くすりと笑わせられます。
しかし、こちらの作品の根底にあるのは、絵の恩師への悔恨の念。
「こうすれば良かった」という行き場のない想いが、コメディタッチで展開される話に巧妙に挿入され、心揺さぶられるのです。
そして、主人公とは対照となるような、日高先生という存在。
彼のようにまっすぐに自分の信じた道を歩むことができたらと、思わずにはいられません。
4巻ラストでは、マンガ家として軌道に乗り始めていた主人公の所に、日高先生からの衝撃の電話があったところで終わっています。
最終巻である5巻は、偶然にもマンガ大賞発表翌日の3月25日!
主人公や日高先生が、どのような決断を下したのか必見です。
マンガ大賞受賞作の傾向
自伝的エッセイマンガ「かくかくじかじか」が大賞を受賞したマンガ賞2015。
では、これまでどのような作品が大賞を受賞してきたのでしょうか?
歴代大賞作品を見てみましょう。
歴代大賞作品
第1回(2008年):『岳(1) (ビッグコミックス)』石塚真一
第2回(2009年):『ちはやふる コミック 1-26巻セット (Be・Loveコミックス)』末次由紀
第3回(2010年):『テルマエ・ロマエ コミック 全6巻完結セット (ビームコミックス)』ヤマザキマリ
第4回(2011年):『3月のライオン コミック 1-10巻セット (ジェッツコミックス)』羽海野チカ
第5回(2012年):『銀の匙 Silver Spoon 1 (少年サンデーコミックス)』 荒川弘
第6回(2013年):『海街diary 』吉田秋生
第7回(2014年):『乙嫁語り』森薫
受賞作品には、「岳」「ちはやふる」「テルマエ・ロマエ」「銀の匙 Silver Spoon」「乙嫁語り」のように、題材や着眼点が珍しい作品や、「3月のライオン」「海街diary」のように心情に強く訴えるテーマ性の強い作品が多い傾向にあります。
「かくかくじかじか」は、どちらかというと後者の方に該当するのではないでしょうか。
そして、この大賞受賞作品を見てかわかるように、少年漫画王道の冒険活劇やファンタジー、少女漫画王道の恋愛漫画、ギャグテイストの強い作品など、10代が強く支持するような作品は大賞を逃す傾向にあります。
というのも、審査員が「書店員を中心とした有志による選考委員」ということもあり、20~40代に支持される現実的な作品が大賞を受賞しやすいのかもしれません。
大賞受賞作の掲載誌も、「銀の匙 Silver Spoon」(掲載誌:少年サンデー)以外は全て20代をターゲットにしている青年、女性漫画誌であることからもわかります。
マンガ大賞のジンクス
マンガ大賞には、「一度マンガ大賞で上位入賞した作品は翌年以降、選を外れることが多い」というジンクスがあります。
過去上位に入った作品は一定の認知を得たので、それ以上の認知は必要ないだろうと別作品に票を投じる傾向にあるようです。
昨年大賞を獲得した『乙嫁語り』が過去2回2位になりながらも、ようやく3度目で大賞を受賞し、「ジンクスが破られた!」と評判になりました。
さて、今回のノミネート作品でも過去に上位にランクインされた作品があります。
4位『僕だけがいない街』と、6位『ボールルームへようこそ』の2作品です。
『僕だけがいない街』は昨年度のマンガ大賞2位、『ボールルームへようこそ』は2013年度マンガ大賞2位でした。
大賞を逃しましたが、2作品共上位にランクインしており、健闘したのではないでしょうか。
また、他のまんが賞で1位に輝いた作品はマンガ大賞で大賞を逃す傾向にあります。
ノミネート作品の中で、これまで発表されたまんが賞1位の作品は下記の通りです。
- 「このマンガがすごい!2015」オトコ編1位 『聲の形』
- 「全国書店員が選んだおすすめコミック 2015」1位 『魔法使いの嫁』
- 「次にくるマンガ大賞 2015」1位 『僕のヒーローアカデミア』
- 「THE BEST MANGA 2015 このマンガを読め!」1位 『ドミトリーともきんす』
過去の受賞歴を遡ってみても、『このマンガを読め! 2008』で1位を獲得し、まんが大賞2013で大賞を受賞した『海街diary』のみになります。
(マンガ大賞2009で大賞を受賞した『ちはやふる』は、大賞受賞をきっかけに「このマンガがすごい!2010」オンナ編1位になりましたが・・・)
やはり、別のまんが賞でトップになると知名度が高くなるため、マンガ大賞のコンセプト的に票を入れづらくなるのかもしれません。
さて、来年のマンガ大賞ではこれらのジンクスが打ち破られる作品は出てくるのでしょうか。
期待したいですね。
大賞受賞作品の今後の展開
マンガ大賞受賞作は、大賞受賞後に映像化される傾向にあります。
「3月のライオン」「乙嫁語り」以外の作品はどれもアニメや実写映画化され評判になりました。
今回大賞を受賞した「かくかくじかじか」ですが、マンガ大賞2015ノミネート作品中、最も実写化しやすい作品だなと筆者は思いました。
東村アキコさんの作品では、「主に泣いてます」のテレビドラマ化や、アニメ化・実写映画化された「海月姫」などがあり、「かくかくじかじか」も映像化に期待がかかります。
今後の動向にも、ぜひチェックしていただきたいと思います。
以上、マンガ大賞2015結果と考察でした。
来年はどんな作品が大賞を受賞するのでしょうか。
来年も面白い作品がたくさんノミネートされると思いますので、期待したいと思います。
コミカルな感じで描かれているけど、それぞれの巻末に込められた先生への想いは心に突き刺さるものがあるよねぇ。